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GOMAXのブログ

楽しいお話を書いていきたいと思っています。よろしくお願いします。

はてな中級ブログチャレンジのムチャ振りに挑戦中!!「うちんち」④

小説(うちんち)

おはようございます。今日も頑張って、執筆、執筆。先日の大雪がやっと溶けてきて、今日は買い出しかな。冷蔵庫の食料が枯渇。

中級ブログチャレンジ挑戦中。Facebookはどうにか開設したぞ。さぁ、次はTwitterか~。やったことないもんばかりで、ふってなりそう。ブログやるのになぜ、FacebookTwitterが必要なのだろうか?いやいや、指南書に疑問を持ってはいけない。さぁ、やるか~。Twitterの設定……

 うちんち④


 昭和天皇がお隠れになられ、平成おじさんが「今日からはこれ!」と、書き初めみたいな紙をべろんと掲げ、昭和が終わりを告げた。


平成二年。『ゴールドプラン十ヶ年計画』が開始し、翌平成三年、老人福祉法が改定され、特別養護老人ホーム(特養)等の入所決定に関わる事務仕事を、市町村へ移譲することが決まった。在宅福祉サービスの積極推進、市町村・都道府県における老人保健福祉計画の策定――と、これまで国がやってきた仕事が一気に市町村に流れ込んできた。源三郎の業務は紛糾を極めていた。

ここ数年の目まぐるしい法律改定で、マイホームパパの源三郎が、歩いてわずか十五分ほどの家にすら帰れないような日が続いていた。
さつきは高校三年生になっていた。


ここ最近、さつきは帰宅が遅くなり出していた。時恵は再三注意してくれと源三郎にせがんだが、「若い頃は楽しいもんや」と相手にしてくれない。そのたびに、怒っているのは私だけかと、時恵は憤慨するのだった。


夏休みが終わった頃、さつきが何日も連絡なしに家に帰らないという事態が起きた。佐藤家にとっては青天の霹靂だった。源三郎は勤続三十七年目にして初の有休を取り、時恵と二人で、さつきの行きそうな場所を思いつく限り必死に探した。しかし、一向にさつきの行方は掴めなかった。


まだ鳴き足りない蝉が、最期を知っているかのように、悲鳴にも似た声を上げている。

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――泣きたいのはこっちの方や――


耳障りな蝉の声は源三郎の苛立ちを煽った。


「事件にでも巻き込まれたんや……?」


途方にくれた時恵がポロリと零した。その言葉を聞いた源三郎は意を決し、受話器に手をかけた。


「警察ですか? 娘が帰って来ないんです。はい、心当たりは全て……はい……」


ほどなくして、警官が家を訪れ、源三郎達に質問を浴びせた。時恵は泣きじゃくるばかりで言葉にならない。源三郎は、自分がしっかりせねばと、警官の質問に淡々と答えるのだった。


警官が帰ると、家の中は静けさに包まれた。嗚咽を漏らし、震える妻の肩を源三郎はそっと抱きかかえた。


「大丈夫、俺たちの子や」


時恵は泣きながら、何度もうなずいた。


翌日。職場に居ても源三郎は空(くう)を見つめるばかりだった。時恵は疲れ果てて、家から一歩も出られずにいた。源三郎は、仕事を定時で切り上げ、すぐに家へと向かった。


「電話は?!」


源三郎が聞くと時恵が黙って首を横に振る。そんな日が幾日も過ぎた。


「佐藤さん。電話です、奥さんから」


部下の一人が受話器を翳して言った。源三郎は慌てて回線を繋いだ。


「警察から電話があってん! 今、警察で保護してるって。私、今から迎えに行って来るさかい!」

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声をつまらせながら事態の打開を告げる時恵に、源三郎は「うん、うん」とうなずいた。二人とも押し寄せる不安からようやく解放され、涙が溢れて仕方が無かった。源三郎は仕事を早退し、家路を急いだ。


居間では、泣き崩れる時恵と、仏頂面をしたさつきが、重苦しい沈黙を生み出していた。


さつきの顔を見た源三郎は安堵した。と同時に、言い知れぬ激情が源三郎を襲った。言葉も交わさず、源三郎はさつきの頬に平手を飛ばした。さつきに手を上げたのはこれが初めてだ。さつきは何も言わず、源三郎の顔をただ睨み続けている。家出の理由を問い正しても、さつきは頑として話さなかった。

 

家出騒動から一年が経った。さつきは神戸の大学への進学が決まり、和泉大津の家を離れ、神戸で一人暮らしを始めた。以降さつきは、ほとんど大津の家に寄り付かなくなった。


源三郎とさつきはあの騒動以来、一言も言葉を交わしていなかった。そのくせ、源三郎は毎日のように、時恵に
「さつきはどうしてんねん」
「飯はちゃんと食うてんのんか?」
と、小煩くさつきのことを聞くのだった。

 

平成四年三月。激動の老人福祉と共に生きてきた源三郎も、さつきの高校卒業と同時に市役所を退職することとなった。そして既に、市の社会福祉協議会老人福祉センター所長として、この春から再就職が決まっていた。いわゆる天下りだ。公務員万歳!
三十八年勤め上げた市役所を定年退職する最後の日。充実感と物哀しさで、源三郎は胸がいっぱいだった。同僚から受け取った花束と手向けの言葉に、源三郎は年甲斐もなく涙を流すのだった。


「お父ちゃん。ご苦労様でした」


玄関先でしおらしく鞄を受け取り、時恵が言った。「うん」と、源三郎は静かに答えた。


食卓には豪華な夕食が用意されていた。柄にもなくワインボトルを開けてグラスに注いだ。二人は何も言わず、グラスを鳴らした。

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時恵は満面の笑みだった。源三郎は、少し照れて苦笑した。


「さ。料理、冷めてもうたらもったいない。いただきます!」


時恵はテンション全開で言うと、料理をとりわけ始めた。いつもと変わらない夕食風景だったが、源三郎には感慨深いものがあった。


「お父ちゃんも来月から、さつきと同じ新入生やね」


食事をとりながら時恵が、源三郎の不安要素をズバリ指摘した。源三郎は少し険しい顔になったが、時恵は構わず笑顔で話を続けた。


「今までと違(ちご)て、ちょっとはゆっくりできるんかなぁ?」


暇になったら二人で旅行がしたいだとか、菜園を作るだとか……時恵は話の中で、次々と未来のカレンダーを埋めていった。


「ちょっと待て、俺は再就職するんやで。右も左もよう分からんとこ行くのに、そんな暇あるわけないやないか」


気の早い時恵を制するように源三郎が言う。


「せやから、暇になったらって言うてるやん。ま、どの道ちょっとは暇になるんやろうしな。老人ホームのセンター長様やもん。やること無いって」


――こいつ、完全に老人ホームなめとんな。


源三郎はそう思ったが口には出さなかった。

話が一段落つくと、時恵は

「お父ちゃんにプレゼントがあんねん」

と、いたずらっ子のような笑みを浮かべ、庭へと出て行った。

「おい、どこ行くねん」

すぐに時恵は、何かを抱えて戻ってきた。

「はーい、おじいちゃんでちゅよ~」

時恵は胸に抱えた白っぽい毛玉を無理やり源三郎に抱かせる。

「お、おい、なんやこれ――」

犬だ。それもまだ小さな赤ん坊だ。源三郎は突然のことで、言葉にならなかった。ミニコミ紙の「譲ります」欄に出ていたラブラドールレトリバーの子犬をもらって来たのだそうだ……。

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源三郎に相談は勿論ない。


「犬なんか、どないすんねん」源三郎は呆れたように時恵に言ったが、「もうもらって来ちゃったんだから、しょうがないわね~」と、時恵は子犬に頬ずりしながら話しかけている。


「お前が面倒見いや」
「はいはい」
「とんだ退職プレゼントや」


ちょっと物哀しいはずの定年退職日は、時恵の趣向で、源三郎には楽しい一日となった。