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GOMAXのブログ

楽しいお話を書いていきたいと思っています。よろしくお願いします。

86歳のクライマー おまけ:うちんち⑰

小説(うちんち)

弱虫ペダルをアニメで一気に見てしまった。よかった~。うん。感動した!

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と、いう訳で、今日は自転車の思い出について書いてみよう。そうしよう。

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私がまだ20代のころ私と母と祖父の三人で尾道の千光寺に墓参りに行った後、 

 

「こんな機会めったにないから、ついでに旅行しよう」

 

と、母の思い付きで、急遽旅行と相成った。

 

ついで参りはよくないとよく耳にするが、ついで旅行なんて聞いたことがない。

 

まぁとにかく宿が取れたとかなんとか言って、母が行き先を告げた。

 

大久野島。凄いよ〜。毒ガスだよ〜」

 

と、母は嬉々として発表した。

 

なんのこっちゃ、それだけの情報量では、車をどこに向かわせたらいいのか見当もつかない。

 

私の質問に一切答えようとしない母は運転席の私に、「早く行け」というように顎をしゃくって、先を急がせた。

 

住所だけ何とか聞き出して、車を走らせた。小一時間ほど走ったところで母は私に車を止めさせ、

 

「フェーリーに乗るよ♪♪」

 

と、ウキウキした様子で私と祖父を車から降ろさせた。

 

港の駐車場で車を乗り捨てて、人だけフェリーに乗った。

 

「車で行けねーのかよ」

 

いぶかしむ私の質問に母は

 

「車でいけないところが味噌なんだな〜」

 

と、これまた嬉しそうに答えた。

 

味噌でも醤油でもいいから、早くつかねーかな?

 

私がオレンジがかった空を見上げていると

 

「着いた!着いたよ!」

 

と、母が声を上ずらせて島を指した。

 


目的地の大久野島休暇村で一泊した。

 

豪華な夕食に大満足だった。

 

次の日。朝早く、文字通り、布団をバシバシ叩いて、たたき起こされた。

 

「何時だよ〜」

 

眠気まなこの私に、祖父と母は準備万端と言った出で立ちで、

 

「出発だ!!」

 

と、父娘で両腕を突き上げた。

 

私も急いで身支度をして2人について行った。

 

ロビーを出ると、レンタル自転車が用意されていた。

 

母と祖父は颯爽と自転車にまたがり、

 

「行くよ」

 

と、気合を入れてペダルを踏んだ。

 

「どうして、朝っぱらから自転車なんだよ」

 

私の叫びもむなしく、2人は猛烈な勢いで自転車を走らせていった。

 

母は当時50を過ぎたところ、祖父は86になったばかりだった。少しスタートが遅れたとはいえ、アラサーの私が追い付けないはずがない……

 

距離はどんどん離されていく。

 

「ちょっと!ちょっと待って〜〜」

 

はぁ。はぁ。はぁ。

小さな洞窟の前で2人が何やら立ち止まっていたので、追い付くことができた。

 

母 「こんなところでねぇ」


爺 「わしは、ずっと外地を回っていたから、こんなところがあったとは知らんだ」

 

と、感慨深げに洞窟を眺めていた。

 

私が追い付くと祖父は

 

「なんだ、お前、おっそいなぁ〜」

 

と、茶化してペダルに足をかけた。

 

上り坂をものともせずに祖父は、私の先を走っていった。じじぃ、クライマーだったのか!

 

「ちょっと、ちょっと待ってよ〜。はぁ。はぁ。コラ〜じじい待て〜」

 

「おっそいの〜」  (・ε・)プップクプー

 

と、20代の私をバカにしながら猛回転でペダルを踏むパワフルジジイ。

 

さすが、フィリピンから大陸に渡って、徒歩でシベリアまで行ったやつの脚力には、かなわない。

 

(本人はそう言っているが、本当に〜? と疑惑の念を抱いている私)

 

ほんとに?(¬з¬)

 

半日?いや数時間で島を一周して私たちは、帰途に就いた。


そんなパワフルジジイは90を過ぎても、飲んで食って、大好きなアメリカンポップスでツイストを踊りまくっていた。

 

「ちょっと具合が悪いんだよ」

 

ある年の春一番が吹いたころ、祖父は珍しく、体調不良を訴えた。

 

「鬼のかく乱だな」

 

と、私も母も笑っていたが、それから数日後、パワフルジジイは、あっけなく、あの世に旅立った。

 

「あ〜おもしろかった。じゃーなー」

 

と、手を振っているかのように、颯爽と逝った。自転車はクライマーだったが、死にざまはスプリンターだった。

 

あの世で、12歳年下の愛妻が待ってるから寂しくないか。

 

。゚( ゚^∀^゚)゚。

 

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うちんち⑰

 

翌日。花梨はいつもどおり学校から走って帰ると、勢いよく家の中にランドセルを放り投げた。


「行ってきまーす」


花梨はそう言って外に出た。誰も家にいないことは分かっている。だが、挨拶をしないと「花梨! 行ってきますは?!」と、源三郎の声が聞こえる気がするのだった。花梨は玄関のカギをかけ、犬小屋に向かった。


「源太、小源太! おじいちゃんとこ行くで」


花梨の姿を見た小源太が、犬小屋から勢いよく飛び出した。小源太は首輪に繋がれた鎖を力いっぱい引っ張り、飛び跳ねている。首が絞まって苦しいんちゃうか、と花梨が心配になるほどだ。 


若葉芽吹く銀杏に源太と小源太を繋ぎ、花梨は施設に入った。ニ匹は春の優しい日差しを浴びて、花梨を待つのだった。


花梨は、源三郎の居室へと向かった。だが、源三郎は不在だった。


「あれ? おじいちゃん、どこ行ってんやろ?」


花梨は廊下に出て辺りを見渡した。すると、〝男湯〟〝女湯〟と書かれた暖簾の前に、老人達が長い列を成しているのが見えた。


「行列のできる銭湯やな」


花梨は腕を組み、感心した。


「おじいちゃんおるかな?」


花梨は男湯の暖簾の中へ、そーっと頭だけくぐらせた。


「おじいちゃんいますか?」


「誰?」


胸元から足先まで覆われた、お魚屋さん仕様のゴム長靴をつけた介護士が、振り向かずに返事をした。介護士は老人たちの濡れた体をせっせとタオルで拭いている。花梨は視線を走らせて源三郎を探したが、脱衣所には全裸・半裸の老爺が沢山いた。


――おじいちゃんだらけやなあ。


花梨がそう思っていると、


「だから誰?!」


介護士が苛立って聞いた。


「あのう、佐藤です。佐藤源三郎です」


「佐藤さん? 今日ちゃうやろ。昨日入ったで、お風呂。次は三日後やな。ええか?」
介護士はそう言い残し、忙しそうに脱衣所から風呂場に入って行った。花梨はすーっと頭を戻すと、源三郎の居室へと足を向けた。


「三日後かぁ……ということは、一週間に二回しかお風呂入れへんのかぁ。おじいちゃんお風呂大好きやのに、可哀そうやな」


花梨はふと足を止め、くるりと向きを直して、再び男湯の暖簾に首を突っ込んだ。
「お風呂は毎日入るもんや!!!!」


花梨はそう大声で叫ぶと、サッと暖簾から首を引き抜き、スタコラ源三郎の居室へと向かった。花梨に怒鳴られた介護スタッフ達は、目を丸くした。


「何や今の? まぁええか。ごめんなさいねー服脱ぎますよ~。あっそこ! 安藤さん、立たないで下さーーい!!」


花梨の声に一瞬手を止めたものの、介護士達はすぐに業務を再開した。入浴介助という過酷な業務を行っている彼らの耳に、花梨の思いは届かなかった。

 

花梨が風呂場から戻ると、源三郎はベッドの上に座っていた。源三郎の前には、白衣姿の背の高い女性が立っていた。


「……こんにちは」


花梨は女性の後ろから、遠慮がちに声をかけた。女性は振り向き、床に膝をついて目線を花梨に合わせた。


「こんにちは。私は作業療法士の成井洋子言います。よろしゅう」


成井はそう言って花梨に手を差し出した。花梨がそろりと手を出すと、成井は花梨の手を両手でふわりと包むように握った。


「佐藤花梨です。よろしゅう」


花梨が言うと、成井はにっこり笑い「うん」


と答えた。成井の手は柔らかく、とても温かかった。花梨はぽわんとして、成井の手の温もりを感じていた。


「さっ」


成井は気合を入れるように言って立ち上がり、再度源三郎に向き直った。


「佐藤さん、病院の高畑先生からお手紙もろてますよ~。病院ではずいぶん頑張らはったみたいですね。花梨ちゃんとまたお家で暮らすためにも、リハビリ頑張っていきましょう」


成井は溌溂とした声で源三郎に言った。


「せやけど、もう体治してもろたさかい、リハビリいうてもなぁ……すること無いで?」


源三郎は弱ったとばかりに言った。


「あっ!」


花梨が感嘆の声を上げた。


「思い出した。高畑先生って、クマの先生?」


花梨が成井に言った。


「クマ……? あー、そうそう。声の大きなおヒゲの先生。確かにクマによう似とるな」


成井は笑って、両手でヒゲを表現しながら花梨に言った。


「手紙? 先生に? ラブレター?」


花梨が聞くと、成井は「アッハッハ」と高らかに笑った。


「そんなようなもんかな。花梨ちゃんのおじいちゃんの体のことが書かれた、お手紙」


「おじいちゃんの?」


「そう。あの先生、あんな大きな体で、細かい細かい情報提供、いつもくれはるんよ」


成井は花梨にそう答えると、また向きを変え、源三郎に告げた。


「それじゃ、今日はこれくらいで明日から本格的に始めましょう」


「わしどこも悪(わる)ないのに」


不服そうな源三郎を背に、成井は居室のドアへ向かった。居室を出る間際、成井はクルリと振り向き、手招きして花梨を廊下へ連れ出した。


「花梨ちゃん。ちょっとそこに座ろう」


成井は、廊下に設置されている長椅子に花梨を座らせ、自分も隣に腰かけた。


「あんな、花梨ちゃん。おじいちゃんの病気やねんけどな。体は治ってんねん。せやけど、頭の病気やねん」


「頭の病気?」


花梨は首を捻った。


「うん。頭の病気は、風邪引いたとか歩かれへんとか、見た目に分かりやすい病気とちゃうから。理解しにくい思うねんけど。でも病気やねん」


「難しいなぁ」


花梨は両腕を組み、口を尖らせて言った。


「そうや、難しいねん。せやから、花梨ちゃんに協力してほしいねん」


成井は口をぎゅっと締めて花梨の目を見た。


「協力? 先生に?」


花梨はきょとんとして成井を見た。


「うん。花梨ちゃんが協力してくれたら、おじいちゃんの病気、絶対良うなるさかい」


「ホンマに?! 分かった! 花梨、先生に協力するわ。ほな、おじいちゃん早(はよ)う治って、お家に帰れるんやんな?」


「うん。ありがとう」


成井は花梨に頭を下げた。


「でも、花梨、何したらええのん?」


花梨が成井に聞いた。


「せやなぁ……」


成井は天井を見上げて何やら考え事をした後、花梨にこんな提案をした。


「そうや、花梨ちゃん。学校の宿題、ここでおじいちゃんと一緒にやろう」


「宿題?」


「そう、宿題。学校で宿題出たら、私に見せて。コピーしてあげるから、おじいちゃんに教えてもらいながらやったらええわ」


成井はニコニコと笑いながら花梨に言った。


「そんなんでええんか? なんや難しいことせなあかんのか思たわ」


花梨は拍子抜けしたように成井に言った。

 

つづく