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GOMAXのブログ

楽しいお話を書いていきたいと思っています。よろしくお願いします。

うちんち㉓

小説(うちんち)

という訳で、さーてさーて、修行の時間です。とりあえず最後まで頑張らねば。はぁ、はぁ。ブログチャレンジにちょっと息切れ気味のGOMAXでござんす。

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その日の夕食は、幸子の夫の司朗も交えての、豪華な晩餐となった。源太と小源太も家に上げてもらい、ご相伴に与ることができた。源三郎が家に帰ってきたこと、そして家族揃って食卓を囲めることは、花梨にとってこの上ない幸せだった。


「源太、小源太! 今日はおじいちゃんが帰ってきたお祝いやから、唐揚げやで~」


――!!!!!


源太と小源太も、この上ない幸せを噛みしめた。

 

その日の夜。花梨は源三郎の布団に潜り込んだ。


「おじいちゃん。お帰り」
「さつきは甘えん坊やな」
「花梨やって! でも、まぁええか。おじいちゃ~ん」


花梨は力いっぱい源三郎に抱きつき、しみじみと温もりを感じるのだった。だが、やがて唐突に布団の中から飛び出した。


「クサい――なんかクサい!」


花梨は鼻を摘まんで辺りを見渡した。


「なんや、この臭(にお)いは」


そして、クンクンと部屋の空気を嗅いで、臭いの発信源を探し始めた。


「うん?」


花梨は臭いのする方角を嗅ぎ当てた。その先には、源三郎が寝ている。


――おじいちゃんが怪しい――


花梨は、源三郎の服を嗅いでみた。


「くっ、クサい。おじいちゃん、ウンコの臭いすんで!」
「そうか?」


源三郎は素知らぬ顔で答えた。


「ちょっと、トイレ行こ」


花梨は慌てて源三郎をトイレへ連れ込んだ。


「ほらおじいちゃん、ちょっとズボン脱いでみ」


花梨はそう言って、源三郎のズボンを下ろそうとした。


「あれ? このズボン、脱ぐとこあらへんがな」


源三郎は、ズボンと上着が分かれていない、つなぎのような服を着ていた。


「これどうやって脱ぐねん。ちょっと、おじいちゃんも探して」


花梨はそう言い、源三郎と二人で服の脱ぎ方を模索し始めた。


「普通、ボタンとか、何(なん)かあるんちゃうのん? これ全然ないやん」


花梨は源三郎の体を右へ左へと回転させながら嘆いた。するとやがて、服の一箇所にボタンらしきものを発見した。それを押したり引っ張ったりしてみたが、どうにもならなかった。

 

花梨はトイレの中に充満してきたウンコの臭いに耐え切れず、「おじいちゃん、ちょっと出よ」と言って、トイレの外に出た。


「あかんわ。クサすぎるわ。中はこもるな、臭いが」


花梨はそう言って、外の新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んだ。少し落ち着いた花梨は、再び源三郎の服を脱がそうと試みた。が、どうにも脱げない。無理やり脱がせようとしたためか、源三郎の首や手首は、リング状に赤くなっていた。花梨は服に一つしかないボタンを凝視した。


「こいつやねん。こいつがどうにも怪しいねん。せやけど、押しても、引っ張ってもあかんねん」


花梨はボタンを人さし指で突っつきながらつぶやいた。


「わからんなぁ……しゃーないな。〝困った事あったらいつでも〟言うとったしな。これは、うちの鼻の危機やからな」


花梨はそう言って、坂東に電話をかけた。


「花梨ちゃん。どうしたんでゃ?」


ワンコールで坂東が電話に出た。


「坂東のおばちゃん、電話出るの早いな。ビックリしますわ」
「肌身離さず携帯持ってるかんね。それより、どうしたん?」
「あんな、おじいちゃんウンコクサいねん。そんで、服脱がそう思たんやけど、この服全然脱げへんねん。どないしたらええのん?」
「そうだいね、介護服のままだったいねぇ。ちょっと待っててくんない、すぐ行がぁ」


坂東はそう言って電話を切った。


一〇分ほど後、坂東が佐藤家に到着した。風呂上がりだったのか、坂東はパジャマ姿のままだった。パジャマには、セーラームーンが大きくプリントされていた。坂東はすぐに源三郎の介護服を脱がし始めた。


「この服はさ、足首にある、このボタンを押っぺしながら捻ると……」


花梨が怪しいと睨んでいた、例のボタンに坂東は手をかけ、指先で捻った。するとボタンがパチリと外れ、中からファスナーのつまみが二つ現れた。


「おっ!」


花梨は手品を見ているように驚いた。


「こっち側のを、こうに引っ張るんさ」


坂東が二つのファスナーのうち一つを開けると、右足首から股間を通って左足首までがパカッと割れ、ズボンが前後に開帳した。


「なんだ?!」


ズボンの想定外の開き方に、花梨は目を丸くした。源三郎の股間は丸出しになった。坂東は膝まで垂れ落ちていた便を手際よく拭き取り、再度ファスナーを閉め、謎のボタンをパチリと止めると、早々に帰って行った。

 

翌朝。花梨は、これでもか! と鳴りまくる目覚まし時計に叩き起こされた。ふと隣を見ると、寝ていたはずの源三郎の姿が無い。花梨は飛び起き、大声で源三郎を呼んだ。


「おじいちゃん?!」


慌てて源三郎の部屋を出て居間へ行ってみると、源三郎は台所に立っていた。炊飯器の釜に米を入れて研いでいるようだ。


「おじいちゃん、ご飯作ってくれんのん?」


花梨は嬉しくなって源三郎に言った。


「花梨お手伝いするね!」


そう言って花梨は、茶碗や湯呑みを食台に並べた。


「おじいちゃん、次何したらええ?」


花梨が流しにいる源三郎に聞いた。源三郎はまだ米を研いでいる。不思議に思った花梨が源三郎の手元を見ると、釜の中の米粒はほとんど流しに零れ出ていた。


「あー!!」


花梨は慌てて、源三郎の手から釜を取り上げた。


「おじいちゃん、何してんねん! お米ほとんど残ってへんやん!」


花梨は源三郎を怒鳴りつけた。源三郎は怪訝な顔をして、花梨から釜を取り返し、再び米を研ぎ始めた。


「花梨がやる!」
「わしがやる!」


花梨と源三郎は釜を奪い合った。

 

・・・・・・

 

結局、今日はパンにすることにした。


朝食を巡っての一悶着が落ち着いた頃、玄関の呼び鈴が鳴った。


「誰やろ、こんな朝早(はよ)うに」


花梨は玄関に行き、ドアを開いた。


「おはようございます!」


元気の良い声が家じゅうに響き渡った。ドアの外には、ピンクのポロシャツを着た年配の女性と、同じくピンクのポロシャツの二十歳くらいの青年が立っていた。


「何ですか?」


花梨が訝しげにポロシャツの女性に聞いた。女性は「山田です」と自己紹介し、今日から源三郎が『デイサービス』に通うことになっている、と花梨に告げた。


「デイサービス?」


花梨が首をかしげていると


「そうねぇ。おじいちゃんたちが行く学校みたいなところかな」


山田がクスッと笑って花梨に言った。


山田がデイサービスの説明をしている途中で「あ、僕、福島です。よろしゅう」と、ポロシャツ青年が早口で割って入った。


「おじいちゃん、学校行くんや。ほな用意せんと。おばちゃん、何持って行くん? 国語? 算数?」


花梨が山田に聞くと、山田と福島は顔を見合わせて、笑った。


「そうやね。学校言うたらそうなるわな。ちょっとええかな」


山田は家に上がり、源三郎のパンツやバスタオルを花梨に用意させた。


「おじいちゃん、お風呂入るん?」


花梨が山田に聞くと、福島が横から答えた。


「そうやねん。お風呂も入る学校やねん。うちのお風呂は大きいで~。温泉みたいやで」


「へー、温泉付きの学校なんや。ブルジョワやな~」


花梨は感心しながら、山田に指示された物を袋に詰めて、福島に手渡した。


「ありがとう。明日から毎日この時間にお迎えに来るさかい、準備して待っとって」


福島は笑顔でそう言って、車に乗り込んだ。


「ほなおじいちゃん、行ってらっしゃ……」


花梨が振り向くと、源三郎の姿は無かった。急いで台所へ行ってみると、源三郎は案の定、二枚目の食パンに手を伸ばしていた。


「おじいちゃん、何やってんのん! わざわざ学校からお迎え、来てくれてんねんで。花梨なんか自分で歩いて行かなあかんのに。めっちゃブルジョワやん! 早(はよ)う、早う!」


花梨は、源三郎が口に咥えているパンを引き抜いて玄関まで連れて行き、靴を履かせた。


「おじいちゃんほら、早(は)よ靴履いて」


ふと見ると、源三郎はいつの間にか、またパンを咥えていた。


「ま、まぁええか」


花梨はパンを咥えたままの源三郎を、送迎車に押し込んだ。


「あ、そうや。山田のおばちゃん、これいらんのん?」


花梨は、昨日坂東から借りた車椅子を差し出した。


「あ~、車椅子か。ま、ええわ。うちのやつ使うから」


山田は車の中から花梨に答えた。やがて車はブルジョワ学校へ向かって発進した。


源三郎を送り出して一息ついた花梨が居間に戻ると、時計は驚きの時刻を指していた。


「な、なんと! 八時三〇分?! 遅刻や! えらいこっちゃ~!」


花梨も源三郎と同じくパンを口に咥え、走って学校に向かった。

 

つづく