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GOMAXのブログ

楽しいお話を書いていきたいと思っています。よろしくお願いします。

うちんち㉕ 排泄のスペシャリスト(コンチネス)

さー佳境に入ってまいりました!「うちんち」もラストスパート先がちょーとづつ見えてきましたよ~。

 

在宅介護で悩みの一つが排泄介助。排泄のスペシャリストがいるのをご存じだろうか。

今回の「うちんち」では、そんな排泄のスペシャリスト、コンチネスをご紹介してみよう。

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凄いですね~。排泄だけでプロがいるんですから今は。介護もお医者さんと同じで、内科とか外科とか専門科が医者にあるように、日常生活の一つ一つに専門家がいるんですね~。お風呂のプロ、トイレのプロ、食事のプロってな具合です。トイレだけをとっても、トイレ動作(ベッドからトイレまでの移動、更衣動作、紙がちぎれるか、お尻が拭けるか等の一連の動作)のプロ。排泄コントロールをするための身体機能(筋肉や神経系のバランスとコントロールを訓練する)のプロとオムツや尿器といった道具の選択で排泄をコントロールするプロの2種類があるんですね~。いやー。ホントにたくさんのプロがいるもんです。

 

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岡本は約束どおり、毎日佐藤家に来てくれた。花梨は家族が増えた気がして嬉しかった。


岡本が来るようになって、初めての土曜日。花梨は源三郎をデイサービスに送り出すと、居間に戻り、テレビのスイッチを入れた。そして、作りかけのリリヤンを編み始めた。細い紐が、少し太い紐になって出てくる。花梨のマイブームだ。一メートルほど編みきったところで、ふと時計に目をやると、二時を過ぎていた。


「もうこんな時間かいな。お昼ご飯食べな」


花梨はそう言って台所へ向かい、あんパンを一かじりした。


「こんにちはー」


玄関から声がした。


「ぶぁーい」


花梨はあんパンを咥えたまま反射的に返事し、さらに咥えたまま玄関へ向かった。


「こんにちは」


そこには、日傘を畳む岡本の姿があった。


「あれ? 岡本さん、三時からやないの?」


花梨は岡本に尋ねた。


「そうなんだけど、一時間じゃお料理も同じ物ばかりになってしまうでしょ。お洗濯も溜まってるし。少し早めに来させてもらってるのよ」


岡本はそう言って家に上がった。花梨は感心したようにうなずいた。


「いろいろ考えてくれてはんねやなぁ」


岡本は微笑みで花梨に答えた。花梨は親指と人差し指で丸を作って、岡本にビシリと言った。


「坂東さんから、ぎょうさん貰いや!」


岡本は「そうね」とカラリと笑った。


「ただいまぁ~。岡本さん居る~?」


再び玄関から大きな声がした。デイサービスの山田の声だ。


「はい、はい」


岡本は返事をしながら玄関に向かった。花梨も岡本の後を追った。


玄関では、源三郎がまたもや靴のまま家の中へ上がろうとしていた。


「おじいちゃん、靴!」


花梨の言葉も聞かず、源三郎はドカドカと靴のままで家の中に入った。


「あー!!」


花梨は慌てて源三郎を追いかけ、靴を脱がした。


「おじいちゃん、あかんやん。靴のままお家に上がったら!」


源三郎は「お、うん」と答えるだけで、平然としている。花梨はとりあえず、源三郎を椅子に座らせた。岡本は「ふふ」と笑って台所に戻った。


「それじゃあ、また明日」


と、山田は帰って行った。


岡本は掃除、洗濯、お料理と、テキパキと仕事をこなしていった。花梨は成井の教えを守り、源三郎と一緒に今日の宿題をやっていた。やがて、台所からいい匂いがしてきた。


「おじいちゃん、ちょっとやってて」


源三郎にそう告げ、花梨は台所を覗いた。岡本は鍋の汁をお玉にとって味見をしていた。


「うん、おいしい」


岡本が満足気につぶやいた。


「今日のご飯、何?」


「今日はね、茄子の鶏肉そぼろ煮、エンドウのおひたし、昨日漬けておいたキュウリの浅漬け、キノコの味噌汁」


花梨はゴクリと生唾を飲んだ。


「おいしそ~。岡本シェフにかかったら、一瞬でご飯できてまうなぁ」


岡本はまた「ふふ」と笑って、料理を食台に運んだ。並べ終わった所で、ちょうど四時になった。


「それじゃ、また明日ね」


岡本はそう言って帰って行った。花梨は玄関で見送った。


居間に戻ると、源三郎が真剣に花梨の宿題をこなしていた。


「あっ! おじいちゃん、ずっとやっててくれてたん? ありがとう!」


花梨は源三郎に感謝の意を表し、算数ドリルに目を通した。ドリルは色鉛筆でカラフルにデコレーションされていた。


「も~! おじいちゃんは算数しなくてよろしい! 国語やっといて、国語!」


――ピンポーン。


呼び鈴が鳴り、「こんにちは」と声がした。花梨は玄関に向かった。


「あ、坂東さん」
「こんにちは花梨ちゃん」
「……あの~」


坂東の後ろには、頭の禿げあがったおじさんが立っていた。花梨は恐る恐るおじさんに目をやった。外見が怪しすぎる。派手なピンクのスーツに、カラフルなアロハシャツ。こんなとんちきな格好は、山本寛斎ルパン三世の他に見たことがない。


「この人はさ、コンチネンスのスペシャリストの周防(すおう)さんっつうんさ」


坂東が花梨に紹介した。


「コンチ……?」


花梨が首を捻ると、周防が坂東の前に出て答えた。


「そうねぇ、コンチって言っても分からないわよね。おしっこやおウンコをご自分でできるようにするための、道具選びのスペシャリストってところかしら。私は自分でオムツソムリエって呼んでるけどね。うふふふ」


周防は外見のいかつさからは想像もつかないオネェ言葉で話した。


「ソムリエ? 田崎真也みたいな? こう、口をくちゅくちゅさせる人?」


花梨は口の中の唾液を舌で転がし、音を立て、ほっぺを窄めたり膨らませたりして見せた。


「ま、口の中にオムツ入れたりしないけどね。口の中の水分、全部吸われちゃうでしょ。うふふふふふ」


周防がそう言って笑った。


坂東と周防は家の中に入り、源三郎の前に立った。


「さぁて、このおじい様がクライアント様ね。はじめまして、周防です。よろしくお願いしまっす」


周防は体をくねらせ、右手を源三郎に差し出した。源三郎は大きく目を見開き、


「なんや、ピンクパンサーか」


と、一言言った。


「もうさっそく始めちゃいますね」


周防は坂東に了承を得ると、源三郎の体のあちらこちらを手で弄り始めた。


「ふむふむ、なるほどね。歩いておられるから、尿器じゃなくてもいけそうね」


周防は素早く介護服のボタンを外し、あっという間に源三郎を裸にした。


「んん~、テープ止めタイプかぁ~」


周防は小指を咥え、悩ましげなポーズでつぶやいた。それからオムツをサッと脱がし、尿取りパットに包まれた源三郎のチンコを人差し指と親指で摘まんで持ち上げた。


「ふ~ん、男女兼用タイプね。体型はやせ型、と。股関節・陰部に発赤・掻き痕無し」


周防はそんなことをつぶやきながらハンドボード上のカルテに書き込んだ後、ポケットからメジャーを取り出して花梨に見せた。


「これ、ゾウさんの形してるの。可愛いでしょ」


花梨はちょっと反応に困った。周防は源三郎のウエストや大腿周計を計測しては、またカルテに書き込んだ。ひととおり計測が終了すると、周防は立ち上がった。


「お嬢ちゃん、ちょっと聞いていい?」


周防は、矢継ぎ早に花梨に質問を浴びせた。


1.尿量(多いか、少ないか)
2.排尿排便の回数
3.便の状態(下痢、便秘等)
4.排尿の状態(少しずつ出るのか、ドバッと出るのか)
5.オムツの使用時間(長時間か短時間か)
6.昼間使うのか、夜間使うのか


花梨は分かる範囲で答えた。


「あとは分からへんわ」
「ありがとう。これだけ分かれば充分よ」


周防はそう言うと、鞄の中からプリントを一枚出して花梨に手渡した。


「これ、排泄記録表。まぁ簡単に言うと、おしっこ・おウンコ表ってところね。おじいちゃんが何時にどれだけ、おしっこやおウンコをしたかを記録するのよ」


「へ~」


花梨はプリントを見ながら、周防の話を聞いていた。


「これ、デイサービスでも付けてもらうわ。花梨ちゃんも寝る前に一回でいいから付けてちょうだい。OK?」


花梨はOKサインを作って周防に見せた。


それから周防は、鞄の中から大量のオムツとパットを取り出して部屋中に広げ、鼻歌を歌いながらオムツを選び始めた。


「♪フフン、フフ~ン♪ これはダメ、これは違うでしょ……それじゃ、これとこれね。花梨ちゃんが交換一回で済むように、強力スーパー吸収パットと、めちゃんこ吸収一〇〇〇ccオムツの組み合わせだ! どうだ! もってけ泥棒!」


周防はそう言って、数あるオムツとパットの中から選んだ、渾身のオムツセレクションをバン、バンとテーブルの上に並べた。


「これで、尿漏れの恐怖やおウンコの香りともおさらばね。オーッホッホッホッホ!」
周防は天を仰いで高らかに笑った。


「へっぶしっ」


フルチンで待たされ続けた源三郎が、大きなくしゃみを一つ放った。 

 

つづく