GOMAXのブログ

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誰にも信じてもらえない体験

お題「誰にも信じてもらえない体験」

 


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21歳の時である。

 

役者仲間の一人が、ショットバーをオープンしたというので、祝いに駆け付けた時のお話。

 

バーは盛況で20人も入ればイモ洗いぐらいのスペースの店に30~40ぐらいすし詰め状態だった。どうにか人の波をかき分けて花束をオーナーに手渡し、早々に店を出た。

 

仕事帰りと言うこともあり時間は夜中の12時ぐらいだった。私は足早に車に乗り込み帰途に就いた。

 

いつものなれた近所の府道である。一本道で二車線。何もない比較的走りやすい道である。いつもの通り、普通に車を走らせていた。信号も何もない一本道で、急にハンドルがガタガタとぶれ始めた。

 

な、なんだ!?

 

私は、状況が呑み込めず、必死にハンドルを右往左往させて車を立て直そうとした。しかし、ハンドルがまるで生き物のように勝手に動き、制御できない。

 

とうとう、車は一回転してしまった。当然私はパニック状態。後続車がいればあわや大惨事である。どうにか暴れ馬のようなハンドルを力ずくで制御してようやく車を立て直すことができた。幸い後続車もなく、大事に至ることはなかった。

 

なんだったんだ、今の・・・

 

踊りまくっている心臓を落ち着けながら、無事家に就くことができた。

 

次の日、旅行に出かけているはずの母親が、日程を切り上げて、一日早く家に帰ってきた。

 

母親は家に入るなり大慌てで私に駆け寄り、20歳を超えた息子の体をパンパンと両手でたたき始めた。

 

な、なんなんだ、この異常行動は?

 

私が戸惑っていると、母親はその場にへたり込むように床に座った。

 

「よかった~。」

 

心底安心したような顔を浮かべて、憔悴したような声を上げた。

 

「どうしたの?」

 

状況の呑み込めない私は、そこでやっと、母親に話しかけることができた。

 

母親は、さっきまでの慌てた様子を一変させて、凛とした表情を作り、

 

「あんた、喪服用意しとき、今夜お通夜や」

 

と重苦しい口調で告げた。

 

思いもよらない展開に動揺しながら私は

 

「誰か死んだんか?」

 

と、構え気味に聞いた。

 

「〇〇君や」

 

母親は悲しみと同情をない交ぜにしたような口調で言った。

 

「え?」

 

私は驚いた。そりゃそうである。親戚のおじいさんやおばあさんが死んだのだと思うじゃありませんか普通。それが順番ってもんですよ。〇〇君は、何を隠そう私と同い年である。つまり21歳ってことですよ。幼少のころからともにボーイスカウトで苦楽を共にしてきた、いわゆる竹馬の友ってやつですよ。彼は別に病弱なわけでもなく、健康体そのもの、しかも頭が良くって子供のころは秀才で名を馳せ、医者にでもなろうかと言う、ひとかどの人物である。

 

しかも、母親はその〇〇君のオカンと一緒に昨日まで旅行に行っていたのである。

 

母親の話が続く、

 

「夕べな、旅館で12時ごろやったかな?おかあちゃん、全然覚えてへんねんけど、みんなで、寝ててんけど、急に起き上がって、旅館の神棚に立って、あかん、あかん。言うてたらしいねん。みんな、そんなんちょっと変に思うやん。(ちょっとどころではない)〇〇さん(オカンの名前)〇〇さん言うて私のこと起こそうと思ったらしいんやけど、なんか急に泣き出して、その場で倒れてしもたんやて」

 

なんか変なもんでも拾て食うたんちゃうかこの人は?と思いつつ、同級生が死んだ話と、オカンの奇行がどうつながるのかさっぱり、わからなかった。

 

「おかぁちゃん、もうろうとしててんけどな、みんなが、私の名前読んでるのは分かっててんけど、嗚咽が止まらへんかってん。そんでな、なんでか、ごめんな、ごめんな、って勝手に口が動いてしゃべりよんねん。涙は止まらへんし、何か変なこと言うてるし、うち、どうかしてもうたんかな?思ってたら、気ぃ失ってん」

 

母上はそこまで一気に話して、大きくため息をついた。

 

「それから、私がどれぐらい寝てたかわからへんねんけど、みんなに起こされて、お茶のみ言われて、お茶のんで、ちょっと落ち着いてきてん。1時ぐらいやったかな?ほな、〇〇さん(亡くなった同級生のオカン)の電話が鳴ってな、〇〇さん、悲壮な顔して、すぐ帰るいうて、帰ったんよ。私らもそんなん、じっと寝てられへんやん。せやから、一緒に帰ってきてん」

 

と言うのだった。

 

「なんでアイツ死んだんよ。事故か?」

 

私の問いにオカンは大きくかぶりを振って、

 

「自殺やって」

 

と、重々しい口調で告げた。

 

!!!!

 

「なんでよ!!」

 

私が少し声を荒げると妹が家に帰ってきた、オカンは妹と私の顔を交互に見やって、

 

「ホンマ、あんたら、アホで良かったわ~」

 

と、突然言い放った。

 

「賢い子はいろいろあんねん。〇〇君医学部目指してたやろ、今年で三浪目や・・・いろいろあんねん。賢い子は。〇〇さんには悪いけど、あんたら、アホで良かったわ~。って心底思うわ」

 

オカンの言いたいことは分かるが、学校から帰ってくるなり「アホで良かった、良かった」と、状況もわからず言われる妹君もキョトンとした顔をしていた。

 

オカンの奇行。私の車が突然暴れ始めた時間、すべて、同級生の自殺した時間帯とぴったり一致する。

 

〇〇君からの何かのメッセージだったのだろうか?

 

これが、私の誰にも信じてもらえない体験です。