女医との恋。
リハビリスタッフ男子たちがなにやら、楽しそうに笑っていた。
話の内容はよくわからなかったが、あきらかにエッチな匂いのする、笑みを零していてる。
私がワカランチンの顔を彼らに向けると、話をしていたリハ主任が若い2年目スタッフを指さして
主任「部長聞いてくださいよ。こいつがとんでもないことを・・・」
と、恐れと茶化しをないまぜにした口調で声を震わせた。2年目スタッフは、両手で自身の体を抱きしめるようにして、腰をくねらせ、よじれるように悶えながら、
二年目「インフルエンザの予防接種行ってきたんです。」
と言うのだった。
気持ちが悪い。
何より、若くてくそが憑くほど真面目で、男前で仕事のできるできるスタッフが、この身のよじらせ方。尋常ではない。
何事だ????
「主任どうしちゃったのこいつ?」
私が、あまりの異変に目を丸くして聞いた。
主任「いやね、こいつ、車好きでしょ?今来ている女医さんが、とんでもない車に乗っ ているんですよ。高くていかつい外車なんですけどね。あー部長、車よくわかんないですよね。(私は車は何でもいい派。みんなの周知の事実なのです)とにかく、すげーくるまなんですよ」
二年目「いきなり、助手席乗せてくださいって言ったら、やっぱりまずいですよね」
と私に助けを求めるような視線を送ってきた。知らんがな!!
まぁ、この女医さん。最近うちの病院に赴任してきたばかりのお医者さん。
とにかく若くて、美人で医者と来ている。しかも、そこいらのサラリーマンじゃ一生雑誌でしかお目にかかれないような高級車を乗り回しているとのことだ。病院内でも超がつくほど高嶺の花である。噂好きの病院スタッフが瞬時に拡散していた。噂の女医さんだ。
主任は後輩のあまりの豹変ぶりにニタニタと笑い続けている。
二年目「こんな気持ち久しぶりですよ。ホント。女の人に好かれようとか、どうしたら話せるだろうなんて思ったの」
と、ちょっと、恋モードに入っているような話しぶりである。
おいおい。心の動揺が隠せきれず、
「お前、すげーな」
と、思わず称賛してしまった。こいつの目は確実にどうにかしてやろうとしている。なんてやつだ。しがない、いち、リハスタッフの二年目君が、美人女医を完全にロックオンしているのだ。
二年目君「今日、〇〇先生の日だったので、インフルエンザ打って貰いに行ったんですよ。だから、部長にインフルエンザ打っとけよって言われてたんですけど、今日まで待ってたんです」
恥じらいに少しやったった感を忍ばせて、ほほを赤らめた。
主任「俺も、インフルエンザ来週にしよう」
しれっと、主任も○○先生にインフルエンザを打って貰うつもりだ!!
「お前ら、アラフォー独身部長を差し置いて、そんな、楽し気な企画遂行していたのか!!」
残念ながら、そんなこととはつゆ知らず、私はさっさとインフルエンザの予防接種を受けてしまっていた。しかも、60過ぎのベテランおじ様ドクターに!!なんてっこった!!不覚!!
二年目「いやー○○先生。医者で美人なのに気さくで、ほんとにいい人なんですよ~。こんな気持ち久しぶりだな~」
色ボケを絵にかいたような顔をして視線を空に投げる。
「あのなぁ。お前、幸せいっぱいのところ、申し訳ないんだけども。医療ピラミッドの階級の格差がさ。その、あれだよ。王様とニートぐらい違うよ。」
と、老婆心ながら私が諭し、主任が
主任「成功確率がさ、摩訶不思議分の1ぐらいですね」
と、冷静に分析する。
二年目「でもですよ!女医さんっていっても、一人の女性です。男と女というカテゴリーに違いはないんですよ!!人間という意味ではみんな同じはずです!!」
私と主任は半目を開き小さく頷きながら、拍手をして彼の熱い演説に答えた。
二年目「アッ!○○先生診療時間終わったら即効帰るから、挨拶行ってきます!!」
突然、恋する二年目リハビリスタッフ君は走るようにしてリハビリ室を出て行った。主任も「それじゃ、僕も」と、ニタニタ、エッチな笑みを浮かべながら「失礼しまーす」と帰っていった。
平成生まれたちはそこはかとなくスゲーな。昭和生まれの私にはとてもできない芸当である。
勇気のないアラフォー男子は、アンパンマン張りに愛と勇気が友達の彼らの恋の行方を静かに見守りたいと思います。(*- -)(*_ _)ペコリ