かっこよすぎる酔っ払いたち
フォークソング居酒屋に行ってきた。
団塊の世代の人たちで溢れかえった、ごく普通の居酒屋。
赤ら顔でネクタイをほどき、呂律のまわらない口調。絵にかいたような酔っ払いたち。
全身から、あ〜。出世街道から外れちゃった〜。的な雰囲気が漂っている。
「じゃぁ〜。オレ、一曲歌うわ」
と、少し頭の禿げあがったサラリーマン風のおじさんが、立てかけてあったギターを手に取り壇上に上がった。
他のお客さんの一人が私に、「これは聞いておいて損はないよ」と耳打ちしてくれた。
「あ〜そうですか」と、愛想笑いを交えながらうなずいたが、内心では、全く期待していなかった。
だって、完全に酔っ払いですよ。呂律もまわらないほどに酔いまくっている、ちょっと小太りでワイシャツのボタンも、もう私限界です!!って悲鳴を上げている。頭だってどこまでも際限なく続く天然反りこみ、わずかに残った勝利の毛髪は、もはや生まれたての小鳥の産毛程度。期待できる要素が一つもなかった。
じゃらーん。とギターをかき鳴らし、前奏が始まってさっきまでの喧騒がぴたりとやみ、一瞬で居酒屋内に静寂が訪れた。
う、うまい。ギターのことはよく分からないが、とにかく引き込まれるような美しいギターの音色。
歌が始まると思わず息をのんだ。さっきまで、酔って「にいちゃんどこから来たんや〜」としどろもどろに聞いてきたおじさんとは思えない美声が流れた。
正しく別人。
目を見張り、歌に酔いしれているうちに、曲が終わった。
おじさんは「おそまつ」と、マイクを離れて壇上を降りると、またさっきの酔っ払いに戻った。
「次は俺ね」と、次々と伯父さんたちが入れ代わり立ち代わり持ち歌を披露していく。周りの客は、「じゃ」と、めいめい、好きな楽器を手に持ち、ピタリと曲に合わせていく。
あっという間に居酒屋内がジャズフェスタに早変わりした。
す、すごい。凄すぎる。
みんな、尋常じゃないぐらいうまい。
冴えないオヤジたちが文字通り一等級のキラボシのごとく輝いている。いや、輝きまくっていた。
かっこいい。
私の若いころバンドブームとやらが世間を賑わせていたせいもあり、昔からライブハウスにはよくいったが、こんなにかっこいいバンドがあっただろうか。
まさに感動の2文字が全身を駆け巡った。
思わず「みなさんプロなんですか?」と聞いちゃったほどだ。
おじさんたちははにかみながら「違う、違う、趣味。趣味」と手を振った。
さらにかっこよさ倍増。
よし、ギターをしよう。
そう思っていた矢先。実家に帰った際。物置に変貌している私の部屋に何やら見慣れないものがぽつんと置かれているではないか。
そこにあったのは、古ぼけたアコースティックギターだった。
お〜。神よ。これは、私にエリック・クラプトンになれとの思し召しか。
などとかって思い込み、アラフォーで初めてのギターを始めることとなった。
弦を張り替え、古道具屋で購入してきたチューニングマシーンで、チューニングセット!!
よし!練習開始!!
二時間後・・・・ゆ、指が痛い。もう早くも挫折しかけ。
そんな今日この頃でした。
(ノ◇≦。) ビェーン! 痛いよ〜